農薬によるミツバチの減少や中毒事故は、ときに大きく取り上げられることもある問題です。
今回は農薬とミツバチの関わりについてご紹介していきます。農薬もミツバチも私たちの暮らしに大きく関わるものですので、ぜひこの問題を考えるきっかけにしていただけると幸いです。
ハナバチとミツバチ
ハナバチ
ハナバチとは、ハチ類の中で蜜や花粉を幼虫の餌として与えるために、花を訪れてそれらを収集し蓄える習性をもつ昆虫です。
ヒメハナバチ科、コハナバチ科、ハキリバチ科、ミツバチ科などに含まれる昆虫が含まれます。しかし、上記と同じミツバチ上科に分類されるハチ類の中でも、アナバチ科などの花を訪れないハチ類は除外されます。
ミツバチ
ミツバチとは、上記のハナバチの中で、ミツバチ科・ミツバチ属に属する昆虫の一群です。
ミツバチは、生物学的な原種は全9種類に分類でき、現在広く分布・飼育されているのはセイヨウミツバチとトウヨウミツバチの2種類です
ミツバチは減少しているか
ミツバチは増加傾向
メディアでたびたび報道される「ミツバチの減少」ですが、現状ミツバチは家畜化された経済動物です。つまり人間側のミツバチ需要との比較によって増減が決定されてしまうことがあります。
「ミツバチが減って人間が必要とする数に足りない」というのが「ミツバチの数が減っている」と置き換えられてしまうのです。FAO(国際連合食糧農業機関)のデータによると、直近60年もの間ミツバチは右肩上がりで増加しています。
局地的には減少している
世界全体の数としては増加傾向にあるミツバチですが、アメリカやヨーロッパといった個別の地域を見てみると、減少傾向にある地域もあります。
アメリカ
1947年の590万群を最高に2008年の230万群まで61%の減少がみられた.
世界におけるミツバチ減少の現状と欧米における要因,(2011),芳山三喜雄,ミツバチ科学 = Honeybee science28巻2号,66頁
アメリカのミツバチは大きく見ると減少傾向にあり、ミツバチの減少に悩んでいるという状況になっています。
ヨーロッパ
ヨーロッパ全体における蜂群減少は1970年の2100万群から2007年の1550万群へとゆっくりと減少している.
世界におけるミツバチ減少の現状と欧米における要因,(2011),芳山三喜雄,ミツバチ科学 = Honeybee science28巻2号,66頁
不完全な集計結果もあり、完璧な比較は不可能とのことですが、ヨーロッパでも減少傾向にあるようです。また、ヨーロッパ内でもフィンランドやスペインは増加傾向、オーストリアやドイツでは減少傾向といったより局地的な増減の差があるようです。
ミツバチの減少が注目される背景
花粉媒介者としての役割
ミツバチは花蜜から美味しいはちみつを作るだけでなく、植物の交配をサポートする農業における重要な役割を担っています。
ミツバチが様々な花を飛び交い、花の蜜や花粉を集める中で、ミツバチの身体についた花粉が行き交い、花の受粉が起こります。これを「花粉媒介」といいます
花粉媒介をする生物はミツバチのほかにチョウやアブなどの昆虫、ハチドリやメジロなどの鳥類などがいます。このような花粉媒介をする生物がいなくなると食料の収穫量が大きく減少します。
植物の中には花粉媒介者がいなければ種子や果実をつくることができない種もあるため、花粉媒介をする生物は人間にとっても生態系にとっても重要なはたらきをしていると言えます。
花粉媒介についてはこちらの記事をご覧ください。
農薬の問題とミツバチの問題の混同
「人間がミツバチを利用して農作物を増やす」というシステム上、ミツバチと農薬は深く関わり合うことになります。
当然、ミツバチの中毒事故も発生しやすく、ミツバチの農薬被害は目につきやすいものとなっています。また、ミツバチは農薬の影響を調べる実験に用いられる動物でもあるため、農薬の安全性の問題と混同されやすくなっています。
ミツバチと農薬
農薬はミツバチを減らしているか
日本では,1960年代以降,水稲生産団地やマツ枯れ対策での有人ヘリコプターによる農薬散布での養蜂被害が多発しており,養蜂家の一家を題材にした児童書「小さなハチかい」(1971年刊)にも空中散布から避難するミツバチの巣箱の様子が描かれるなど,一般にも知られるところであった.
ネオニコチノイド系農薬の使用規制でミツバチを救えるか,中村 純,
玉川大学学術研究所ミツバチ科学研究センター(2015)193頁
実際に農薬による養蜂への被害はたびたび問題となっており、農薬がミツバチに影響のないように管理されてきたとは言い難い状況です。実際に、致死量以下のネオニコチノイド系農薬がミツバチの行動に影響を与えることが研究で確認されています。
ネオニコチノイド系農薬についても多数の実験室内および野外での影響評価試験が行われてきた.前述したように,低用量での長期影響については,実験室内では影響が見られるのに野外試験では具体的な影響を確認できていない.
ネオニコチノイド系農薬の使用規制でミツバチを救えるか,中村 純,
玉川大学学術研究所ミツバチ科学研究センター(2015)195頁
ミツバチは外的環境により行動が変化する動物であるため野外試験が必要であるが、野外実験のデータは多くないだけでなく、実験の設定が適性であるかの判断もしにくいようです。
農薬の規制
昨今、世界的な食の安全に関心が高まりつつあり、減農薬の傾向は強まっています。
欧州やアジアの多くの国や地域では、パラコートだけでなく、除草剤のグリホサートや殺虫剤のネオニコチノイド、クロルピリホスなど、人や自然の生態系への影響が強く憂慮されている農薬の規制を強化する動きが急速に広がっている。国レベルでは規制が緩やかな米国でも、自治体レベルでは規制強化が進み始めている。
EUで使用禁止の農薬が大量に日本へ,猪瀬聖,(2020)
日本の農薬規制は、先進国の中では緩いといえる種類もあり、各国で規制を受けて行き場を失った農薬が日本に入ってくるという現状もあるようです。
しかし、人間にとって有毒であるとされた農薬の代替として用いた農薬がむしろミツバチへの被害をもたらすといったことも考えられます。
ネオコチノイド系農薬であれば1回の施用(種子被覆)で済むものを,代替した薬剤の散布は複数回に及んだところもあったという.結果として,ミツバチの農薬暴露リスクはかえって上昇し,またナタネの減収が次年以降のナタネの作付けを減退させれば,ミツバチにとって重要な春の資源(ナタネは花粉源・蜜源)が失われかねず,ミツバチ保護の観点からも逆行した状況を招いていると思われる.
ネオニコチノイド系農薬の使用規制でミツバチを救えるか,中村 純,
玉川大学学術研究所ミツバチ科学研究センター(2015)195-196頁
人体への安全性はもちろん酸優先で考慮されるべきではありますが、ミツバチをはじめとした花粉媒介者への影響も考慮して農薬を用いるべきではないでしょうか。
農薬の規制があるフランスでミツバチの数が低迷し、農薬の規制がない国でミツバチが健康であるという例も報告されています。しかし、農薬の販売促進のための研究である可能性も考慮し、多角的な見方をしていくことが必要です。
私たちは「農薬の安全性の課題」と「ミツバチを減少を防ぐという課題」を混同し、農薬の危険性を過剰にアピールしていないかということも考える必要があります。農薬によるミツバチへの被害を小さくしていくのはとても大切ですが、問題の原因が本当に農薬によるものなのか疑うことも必要です。
農薬以外の問題「蜂群崩壊症候群(CCD)」
近年、蜂群崩壊症候群(CCD)と呼ばれる原因不明のミツバチの大量死が観測されています。
実際に調べてみると日本では2013~2018年までの5年間の調査では日本でCCDは発生していませんが、世界を見てみるとこのCCDによる局地的なミツバチの大量死が報告されています。
「蜂群崩壊症候群(CCD)」は今のところ直接的な原因は不明であり「大規模飼育や工場採蜜に伴う巣板の共用による病気の蔓延」や「開発によって減った資源をミツバチたちが取り合うことで起こる栄養状態の悪化」といった説が提唱されている状況です。
大きく注目される問題ではありますが、世界中で危機的な減少が起こっているという信ぴょう性の高い報告は見つからないため、煽情的な情報にとらわれず冷静に分析していく必要があります。
ミツバチの減少を防ぐために私たちができること
無農薬によるガーデニング
庭に花を植えるだけでもミツバチにとっては住みやすい環境になります。観賞用に品種改良された草花の中には蜜や花粉を持たないものもあるため、なるべく自然に近い草花を植えたほうがミツバチには優しいといえます。
また、開花時期は花によって違うため、可能ならば一年中何かしらの花が咲いている花壇を目指したいものです。
ただ、ガーデニングは周囲の環境を考えて行う必要があります。他人の居住地まで草花が侵食したり、ミツバチ以外の虫が発生して隣人に迷惑をかけることがないよう気を付けたいものです。
無農薬や有機栽培を徹底する必要はありませんが、可能な限り自然に近い状態で植物を残してあげたいですね。
巣を作れる場所を残してあげる
現在の居住地にはミツバチが巣を作れる場所がほとんど残されていません。ミツバチは密閉された空間や枯れた木の枝に巣を作ることが多いです。
もしミツバチが巣を作ったとしても被害が出ない場所であるならば、ミツバチが巣を作れる場所を残してあげてください。
ミツバチは人に攻撃することもあります。糞害があったり、スズメバチを引き寄せてしまうこともあります。私たちがよりよく生きていくためにミツバチを駆除することも時には必要です。
しかし、ミツバチは私たちがよりよく生きていくために不可欠な存在であるということも忘れないでいただけたら嬉しいです。
ミツバチを飼ってみる
都会だと難しいかもしれませんが、養蜂はとても面白い趣味になります。とはいえ、こちらも周囲の環境に配慮する必要があります。
他の花粉媒介生物の生存を阻害してしまったり、病気を蔓延させてしまうことについては充分に注意しなければなりません。
現在日本では、ニホンミツバチの愛好家が増加したおかげで、ニホンミツバチの数が増加しています。はちみつの生産に限れば、セイヨウミツバチのほうが優れている点が多いですが日本の在来種であるニホンミツバチは日本人からとても愛されているミツバチです。
ミツバチを守るためのボランティアに参加する
イギリスでは、ミツバチの保全事業に必ずボランティアが必要とされるようです。新しい生息環境を作るための地道で長期的な作業のようですが、長年にわたってミツバチとふれあい、その成果を眺められることはミツバチ愛好家にとってはこの上ない喜びになるかもしれません。
他にもミツバチの研究ボランティアもあります。特定の場所でミツバチの種類と数を数えるものや、ミツバチの写真を位置情報つきで研究者へ送るといったものもあるようです。
おわりに
人間とミツバチの共生は両者が両者が豊かに生きていくうえでとても大切なことです。そのために、正しい情報を正しく解釈して行動することが求められています。
花粉媒介によって生産された農作物や、はちみつ、ローヤルゼリーといった製品などのミツバチのもたらす恵みをこれからも享受して後世にも残していくために、私たちは考え続けていくことが大切ですね。
ミツバチを守るために現在活動している方も、今までミツバチについてあまり知らなかった方も、この機会にミツバチについてもう一度調べてみてはいかがでしょうか?
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